AGA治療を数年間続けたものの、僕の生え際の後退は、思うようには改善しなかった。薬のおかげで、進行は緩やかになったかもしれない。でも、失われたものを取り戻すまでには至らなかったのだ。「これが、僕の限界なのか」。そう思い、半ば諦めかけていた時、妻が静かに切り出した。「一度、かつらの話も聞いてみない?」。正直、抵抗があった。「かつら=おじさん」「隠している」という、ネガティブなイメージが、僕の頭にはこびりついていた。しかし、悩んでいる僕の姿を見かねた妻の優しさに押され、僕は半信半疑で、ある大手メーカーのサロンのドアを叩いた。そこで僕を待っていたのは、僕の固定観念を根底から覆す、驚きの世界だった。個室で対応してくれた専門スタッフは、僕の悩みに親身に耳を傾けた後、最新のかつらのサンプルを見せてくれた。その生え際の自然さ、驚くほどの軽さ、そして人毛と見紛うほどのリアルな質感。それは、僕が想像していた「かつら」とは、全くの別物だった。試着用の製品を装着し、鏡の前に立った瞬間、僕は息をのんだ。鏡に映っていたのは、数年前の、まだ髪の悩みがなかった頃の自分だった。いや、プロのスタイリストがカットしてくれたその姿は、当時よりもずっと洗練されて、格好良くさえ見えた。その日、僕はオーダーメイドのかつらを作ることを決意した。数週間後、僕だけのために作られたかつらが完成した。最初は少し慣れなかったが、すぐにそれは僕の体の一部になった。何より変わったのは、僕の心だった。風が吹いても、もう前髪を押さえる必要はない。人と話す時も、相手の視線を気にすることなく、堂々と目を見て話せるようになった。かつらは、僕にとって、単に髪を補う道具ではない。それは、僕が失いかけていた自信と、前向きな気持ちを取り戻させてくれた、最高のパートナーなのだ。選択肢は、一つではない。あの時、勇気を出して新しい扉を開いた自分を、僕は心から褒めてあげたいと思う。
私がかつらという選択肢で自信を取り戻した日